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シンガポールのヘイズってなに?清潔な国で大気汚染が深刻化する理由

シンガポールのヘイズと霞む都市景観 災害
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街にゴミが落ちていない。ポイ捨てには高額な罰金。シンガポールといえば、そんな清潔で規則の厳しい国というイメージを持つ人も多いのではないでしょうか。

ところが2026年10月、そのシンガポールで深刻な大気汚染が発生しました。街の景色は白っぽい煙に覆われ、大気汚染の指数は「非常に健康に悪い」とされる水準に達しています。屋外スポーツ施設の一時閉鎖やイベントの延期など、日常生活にも影響が広がりました。

原因として指摘されているのが「ヘイズ(Haze)」と呼ばれる現象です。

日本ではあまり聞き慣れない言葉ですが、工場の排煙などによる一般的な大気汚染とは何が違うのでしょうか。また、あれほど街をきれいに保っているシンガポールで、なぜ深刻な大気汚染が起きるのでしょうか。

実はこの問題には、インドネシアで発生している森林・土地火災が深く関わっています。しかも、一時的な自然災害というだけではありません。泥炭地の火災、農地開発、気象条件、国境を越えた環境対策の難しさまで重なった構造的な問題です。

この記事では、2026年10月のシンガポールで何が起きているのかを確認しながら、ヘイズの正体、発生原因、健康への影響、厳しい法律があっても防げない理由、そして日本とのつながりまで順番に見ていきます。

シンガポールでヘイズが深刻化!2026年10月に何が起きた?

まず押さえたいのは、今回のヘイズが単に「少し空がかすんでいる」程度の出来事ではないということです。

2026年10月のシンガポールでは、大気汚染の指数が健康に悪影響を及ぼすレベルまで上昇し、屋外施設の利用やイベントの開催にも影響が出ました。マリーナベイ周辺などの象徴的な景観も、普段とはまったく違う姿になっています。

ここでは、まず2026年10月に起きた事実関係を整理し、どの程度深刻だったのかを確認します。

大気汚染が「非常に健康に悪い」レベルに達した

今回の状況を知るうえで重要なのが、シンガポールで使われている大気汚染指数「PSI(Pollutant Standards Index)」です。

24時間PSIが101以上になると「Unhealthy(健康に悪い)」、201以上になると「Very Unhealthy(非常に健康に悪い)」、301以上になると「Hazardous(危険)」と分類されます。

国家環境庁(NEA)の発表などによると、2026年10月の24時間PSIは次のように推移しました。

測定日時 24時間PSI 大気汚染の状態
10月12日午後7時 118〜155 健康に悪い
10月16日午後8時 159〜222 一部地域で非常に健康に悪い
10月17日午後7時 130〜199 全域で健康に悪い
10月18日午前10時 西部地域で230 非常に健康に悪い
10月18日午後6時 109〜192 全域で健康に悪い

※10月18日午前10時の230は西部地域の測定値です。NEAが同18日に示した翌19日の予測値は101〜190であり、実測値ではありません。

※NEAの発表内容を記事用に要約・整理
出典:NEA・10月12日の発表
出典:NEA・10月16日の発表
出典:NEA・10月17日の発表
出典:NEA・10月18日の発表

10月16日には一部地域で200を超え、18日午前には西部で230に達しました。これは政府区分では「Hazardous(危険)」ではなく、その一段下の「Very Unhealthy(非常に健康に悪い)」にあたります。

ただし、だからといって軽い問題というわけではありません。子どもや高齢者、妊婦、慢性的な心肺疾患がある人にとっては特に注意が必要なレベルです。

数字だけでは、実際のヘイズがどのような状態だったのか想像しにくいかもしれません。10月16日に投稿された以下の動画では、マリーナベイ周辺の景色が灰色のもやに覆われ、シンガポール・フライヤーや高層ビル群が見えにくくなっている様子が確認できます。

マリーナベイはシンガポールを代表する観光エリアです。普段は海沿いの景観と高層ビル群がはっきり見える場所ですが、ヘイズが強まると、街の象徴的な風景そのものが一変します。

また、10月14日にも同じマリーナベイ周辺の視界悪化を伝える投稿がありました。以下の写真は投稿者の友人が同日午後に撮影したものと説明されています。

この投稿にある数値は投稿者側の記述であり、NEAの公表値と同じ時間帯・同じ地点の測定値とは限りません。ただ、10月中旬には複数の日にわたり、マリーナベイ周辺で視界悪化が続いていたことは読み取れます。

屋外施設の閉鎖やイベント中止も発生

今回のヘイズは、見た目の問題にとどまりませんでした。スポーツ施設の運営やイベントにも影響し、日常生活の面でも無視できない状況になっています。

景観がかすむだけなら観光上の問題に見えるかもしれませんが、実際には健康リスクの高まりに応じて、施設運営や行事の判断も変わらざるを得ませんでした。

以下の投稿では、雲がないにもかかわらず、シンガポールのスカイライン全体が厚い灰色のヘイズに覆われている様子が紹介されています。

こうした状況では、屋外で長時間活動すること自体がリスクになります。実際に10月16日には、Sport SingaporeがActiveSGの屋外施設と空調のない施設を一時閉鎖しました。空調のある屋内施設は営業を継続し、17日には閉鎖施設も再開しています。

現地報道によると、10月17日に予定されていたサッカーのFAカップ決勝と3位決定戦は、ヘイズの影響で延期されました。また、11月1日に予定されていたGreat Eastern Women’s Runの中止も伝えられています。

※現地報道の内容を記事用に要約
出典:CNA

このように、2026年10月のヘイズは「少し空が白い」というレベルではなく、屋外スポーツや大規模イベントの実施にも影響する深刻な大気汚染として受け止められていました。

煙はどこから流れ込んでいるのか?

では、この煙はシンガポール国内で発生しているのでしょうか。

今回のヘイズで大きな原因とされているのは、インドネシアで発生した森林・土地火災の煙です。国家環境庁は、カリマンタン島やスマトラ島方面の煙が風に乗ってシンガポールへ流れ込んでいると説明しています。

火災の現場がシンガポール国内にないとしても、煙は国境で止まりません。大量の煙が大気中に広がり、シンガポールへ向かう風が吹けば、街の空気も汚染されてしまいます。このような現象が「越境ヘイズ」です。

そもそも「ヘイズ」とは何?普通の大気汚染や公害との違い

ここまでで、2026年10月のシンガポールで深刻な煙害が起きていることは分かりました。

ただ、日本では「ヘイズ」という言葉自体にあまり馴染みがありません。工場の排煙や黄砂と同じようなものなのか、それとも全く別の現象なのか、分かりにくいところです。

この章では、ヘイズとは何かを整理しながら、一般的な大気汚染、公害、光化学スモッグ、黄砂との違いを確認します。

ヘイズは空気が白くかすむ現象

「ヘイズ(Haze)」は、空気中に漂う微粒子などによって遠くの景色がかすんで見える現象です。

霧と似て見えることがありますが、霧が主に細かな水滴でできているのに対し、ヘイズは煙やほこりなどの粒子によって視界が悪くなる点が異なります。

今回シンガポールで問題になっているのは、森林・土地火災の煙による「スモークヘイズ」です。つまり、ヘイズは大気汚染とは無関係の特殊現象ではなく、大気汚染物質によって空がかすんで見える状態だと考えると分かりやすいでしょう。

工場の排煙・スモッグ・黄砂とは何が違う?

現象 主な発生原因 特徴
森林火災由来のヘイズ 森林・泥炭地などの火災 煙に含まれる微粒子やガスが広範囲に拡散する
工場排煙などの大気汚染 工場・発電所・自動車などからの排出 排出源によってさまざまな汚染物質が発生する
光化学スモッグ 窒素酸化物などが太陽光で化学反応を起こす オゾンなどの光化学オキシダントが問題になる
黄砂 乾燥地で巻き上がった土壌・鉱物粒子 風に乗って遠距離へ運ばれる

工場の排煙や自動車の排ガスは、産業活動や交通に伴って発生します。日本でも高度経済成長期には四日市ぜんそくのような深刻な公害が問題になりました。

一方、光化学スモッグは排出された物質が太陽光で化学反応を起こして生じるもので、発生の仕組みが異なります。黄砂は中国大陸やモンゴル周辺の乾燥地域から飛来する土壌粒子で、発生源自体が別です。

ただし、現実の大気中では複数の汚染物質が混ざり合うこともあります。原因を一つだけに単純化しすぎないことも大切です。

ヘイズに含まれるPM2.5はなぜ問題なのか?

ヘイズのニュースでよく出てくるのが「PM2.5」です。

PM2.5とは直径2.5マイクロメートル以下の非常に小さな粒子の総称で、特定の化学物質名ではありません。森林火災、自動車、工場など、さまざまな発生源があります。

問題は、その粒子が非常に小さいため、呼吸によって肺の奥まで入り込みやすいことです。高濃度の煙にさらされると、目や喉の刺激、咳、息苦しさ、ぜんそく症状の悪化などにつながる可能性があります。

ただし、健康への影響は濃度だけでなく、屋外にいた時間や活動の強さ、個人の持病の有無などでも変わります。だからこそ、現地では24時間PSIと1時間PM2.5の両方を見ながら行動を判断する仕組みになっています。

街がきれいなシンガポールで、なぜヘイズが発生するのか?

シンガポールのヘイズをめぐって、多くの人が不思議に思うのが「なぜあれほど清潔な国で、空気がこんなに汚れてしまうのか」という点ではないでしょうか。

ただ、街のゴミをなくすことと、空気中の汚染物質をなくすことは同じではありません。今回の問題を理解するには、シンガポール国内の衛生管理ではなく、周辺国との位置関係や風の流れに目を向ける必要があります。

ここでは、煙がどこで発生し、なぜシンガポールまで届くのかを整理します。

原因は国外から流れ込む森林火災の煙

シンガポールの西から南西にはスマトラ島、東から南東にはカリマンタン島があります。これらの地域で発生した火災の煙が大気中に広がり、シンガポールへ向かう風が吹くと、都市部の空気も汚染されます。

しかも、火災の影響を受けているのはシンガポールだけではありません。発生地域そのものや周辺の街でも、煙による深刻な影響が出ています。

以下は、インドの報道機関Hindustan Timesが10月18日に投稿した、中央カリマンタン州パンカラン・ブンのヘイズの様子です。

シンガポールでは国外から流れ込んだ煙が問題になっていますが、火災発生地域の周辺では、より直接的に煙の影響を受ける人々がいます。

ただし、この動画に映るパンカラン・ブンの煙が、そのまますべてシンガポールまで到達したと確認できるわけではありません。煙がどこへ流れるかは、風向きや気象条件によって変わります。

インドネシアの火災がシンガポールに届く仕組み

東南アジアでは、季節によって風向きや降雨の傾向が変わります。特に6月から9〜10月ごろの南西モンスーン期には、スマトラ島やカリマンタン島方面の煙がシンガポールへ運ばれやすい条件がそろうことがあります。

ただし、南西モンスーンだからといって、いつも同じ方向の風が吹くわけではありません。その日の気圧配置や降雨状況によって煙の流れ方は変わります。

NEAは2026年10月16日の発表で、カリマンタン島で発生した煙が南東風に乗ってシンガポールへ流れ込んでいると説明しました。一方で、風向きが変わればカリマンタンからの流入が弱まる可能性もあるとしています。

※NEAの2026年10月16日の発表を記事用に要約
出典:NEA

雨が降れば空中の粒子の一部が地表へ落ち、一時的に空気が改善することもあります。ただし、シンガポールで雨が降ったからといって、インドネシアの火災そのものが消えるわけではありません。

街の清潔さと空気のきれいさは別問題

道路や公園のゴミであれば、国内の清掃や取り締まりによって対策ができます。しかし、空気中の汚染物質は目に見えないほど小さく、しかも風に乗って国境を越えてやってきます。

シンガポール国内にも工場や自動車などの大気汚染源はありますが、今回のヘイズの主因は国外の火災による煙です。つまり、街がいくら清潔でも、それだけでは防げない問題なのです。

日本でも、黄砂や越境大気汚染を国内対策だけで完全に防ぐことはできません。シンガポールのヘイズも、同じように国境を越えた大気のつながりを示しています。

森林火災の煙はなぜ消えない?泥炭地火災と農地開発の問題

ヘイズの発生源が森林・土地火災だとしても、次に気になるのは「なぜそんなに長く煙が出続けるのか」という点です。

この問題の背景には、インドネシアに広がる泥炭地の性質と、土地利用のあり方があります。単なる「木が燃えている火事」とは違い、地面の下まで燃え続ける火災が、長期的な煙害を引き起こす大きな要因になっています。

ここでは、泥炭地火災とは何か、なぜ消火が難しいのか、そして農地開発とどのように関係しているのかを見ていきます。

地下でも燃え続ける「泥炭地」とは?

泥炭地とは、枯れた植物などの有機物が水分の多い環境で分解しきれず、長い年月をかけて地中に蓄積した土地のことです。

本来は湿っているため簡単には燃えませんが、農地開発などのために排水路が作られて地下水位が下がると、乾燥した泥炭そのものが燃料のような状態になります。

その結果、地表の火が泥炭へ移ると、地下でゆっくり燃え続ける「くすぶり燃焼」が起きます。地表に大きな炎が見えなくても、地下では燃焼が続いていることがあり、再燃しやすいのが特徴です。

火災の影響は人間の生活だけでなく、自然保護区にも及びます。以下の投稿は、中央カリマンタン州のパランカラヤでの火災に加え、タンジュン・プティン国立公園やKalaweitの保護区域をめぐる状況を伝えるものです。

この投稿で言及されているタンジュン・プティン国立公園、パランカラヤ、Kalaweitの保護区域は、それぞれ別の場所です。また、投稿内の被災面積などは公的機関の確定値として確認できたわけではありません。

それでも、火災が野生動物の生息地や自然保護区にまで影響を及ぼし、現場で火の広がりを食い止める対応が必要になっていることは伝わってきます。泥炭地まで燃えてしまえば、消火はさらに難しくなります。

なぜ農地開発で火が使われるのか?

インドネシアでは、アブラヤシ農園や製紙原料用の植林地などの開発が進んできました。湿った泥炭地を農地として使いやすくするため、排水路を作って水位を下げることがあります。

さらに、土地を整備する際に、木や草を取り除くため火が使われることがあります。火を使えば比較的少ない費用で広い土地を処理できる場合があるためです。

もちろん、すべての農家や企業が違法な焼き払いをしているわけではありませんし、火災には失火や延焼などもあります。ただ、乾燥した泥炭地と火を使う土地利用が重なると、大規模で長引く火災につながりやすくなります。

2015年にインドネシアで発生した大規模火災について、世界銀行は約260万ヘクタールが焼失し、経済損失は少なくとも約161億米ドルに達したと推計しています。

※世界銀行の分析を記事用に要約
出典:世界銀行「The Cost of Fire」

土地を安く整備できたとしても、その結果生じる煙害や健康被害、経済損失は周辺国まで広がります。ここに、ヘイズ問題の構造的な難しさがあります。

乾燥やエルニーニョ現象が火災を悪化させる理由

火災が広がるかどうかは、土地の状態だけでなく気象条件にも左右されます。特に雨が少なく乾燥が続く年は、火災が起きやすく、燃え広がりやすくなります。

シンガポール気象当局は2026年5月、同年後半にエルニーニョ現象が発生する可能性が高いとし、6月から10月にかけて例年より高温・少雨となり、越境ヘイズのリスクが高まると警告しました。

※NEA・気象当局の発表内容を記事用に要約
出典:NEA

エルニーニョそのものが火をつけるわけではありませんが、乾燥した天候は火災が拡大しやすい条件をつくります。土地利用の問題と気象条件が重なったとき、ヘイズはより深刻になりやすいのです。

罰金が厳しいシンガポールでもヘイズを防げない理由

シンガポールといえば、ゴミのポイ捨てや公共マナー違反に対して厳しい罰則がある国として知られています。

それだけ厳しい国なら、ヘイズのような重大な環境問題にも高額な罰金で対応できるのではないか、と思う人もいるかもしれません。実際、シンガポールには国外で発生した煙害にも対応する法律があります。

それでもヘイズが繰り返されているのはなぜなのか。この章では、国内の違反を取り締まることと、国外の火災による煙害の責任を追及することの違いを見ていきます。

ゴミのポイ捨てには厳しい罰則がある

NEAによると、ポイ捨てで有罪判決を受けた場合の罰金上限は、初回が2,000シンガポールドル、2回目が4,000ドル、3回目以降は10,000ドルです。

さらに、裁判所の命令で公共の場所の清掃作業を行う「Corrective Work Order(CWO)」が科されることもあります。これは単に罰金を払うだけでなく、実際に清掃作業を通じて違反の影響を認識させる仕組みです。

たとえばNEAは2021年、8回目の有罪判決を受けた吸い殻のポイ捨て事案で、3,600ドルの罰金と12時間の清掃作業が命じられた例を紹介しています。

国外の煙害にも対応する「越境ヘイズ汚染法」

シンガポールは2014年に「越境ヘイズ汚染法(Transboundary Haze Pollution Act)」を制定しました。これは、国外の土地での行為がシンガポールのヘイズを引き起こしたり、汚染に寄与した場合に、一定条件のもとで責任を問える法律です。

同法第5条では、違反に対して1日当たり最大10万シンガポールドルの罰金が規定されています。また、予防措置通知に従わなかった場合などには、条件に応じて追加で1日最大5万ドルの罰金が科される可能性があります。ただし、第5条に基づく有罪判決の罰金総額には最大200万ドルの上限があります。

※越境ヘイズ汚染法2014の規定を記事用に要約
出典:Singapore Statutes Online

ただし、これは法定の上限であり、通知を送っただけでその金額が自動的に科されるわけではありません。ここで「通知」と「有罪判決」は明確に区別する必要があります。

実は2015年にも6社への通知と調査が行われていた

シンガポールが企業責任の追及に動いたのは今回が初めてではありません。2015年の大規模火災の際にも、NEAはインドネシアの6社に法的通知を送っています。

2021年9月の国会答弁によると、2015年に通知を受けた6社のうち、2社は2017年3月までに案件が終了し、残る4社は2021年9月時点で調査継続とされていました。

※2021年9月13日の国会答弁を記事用に要約
出典:MSE

ここで大切なのは、「案件終了」や「調査継続」を、そのまま有罪・無罪と読み替えないことです。火災の発生場所と、特定企業の法的責任を立証することは別の問題だからです。

2026年10月にはインドネシアの7社へ通知

2026年10月16日、NEAは新たにインドネシアの7社へ予防措置通知を送付したと発表しました。

対象企業は、PT Bumi Andalas Permai、PT Bumi Mekar Hijau、PT Paramitra Mulia Langgeng、PT Sumatera Alam Anugerah、PT SBA Wood Industries、PT Hutan Lestari Raya、PT Bangkanesiaの7社です。NEAは、消防要員の配置、焼却行為の停止、行動計画の提出などを求めています。

※通知の送付は有罪判決ではなく、違法行為や法的責任が確定したことを意味しません。

※NEAの2026年10月16日の発表を記事用に要約
出典:NEA

政府が責任追及に動いていることは確かですが、通知を送ることと、実際に責任を立証して制裁につなげることの間には大きな隔たりがあります。

法律があっても解決が難しいのはなぜ?

大きな理由は、国外で発生した火災の責任を立証するには、土地の権利関係、実際の管理状況、現地で何が行われていたかなど、多くの要素を調べる必要があるからです。

衛星画像で火災の位置や煙の広がりは確認できても、それだけで特定企業の法的責任が確定するわけではありません。証拠収集には相手国側の協力も必要です。

つまり、シンガポールの厳しい国内規制は、自国内のポイ捨てのような問題には強く機能しても、国外の広大な土地で起きる火災を同じように制御することはできないのです。

ヘイズは人体にどれくらい危険?旅行者が知っておきたいこと

ここまで見てきたように、ヘイズは景観の問題ではなく、健康に影響を与えうる大気汚染です。

では、旅行者や現地で生活する人は、どの程度注意すればよいのでしょうか。ヘイズが出ている日は一切外出してはいけないのか、マスクは必要なのか、といった疑問も出てくると思います。

この章では、シンガポール保健省の指針をもとに、PSIやPM2.5の見方、特に注意が必要な人、旅行中の行動の考え方を整理します。

PSIの数値で分かる大気汚染の危険度

シンガポール保健省は、24時間PSIの区分に応じて行動の目安を示しています。

24時間PSI 公式区分 日本語での意味
0〜50 Good 良好
51〜100 Moderate 普通
101〜200 Unhealthy 健康に悪い
201〜300 Very Unhealthy 非常に健康に悪い
301以上 Hazardous 危険

保健省によると、健康な人でもPSIが101〜200なら長時間または激しい屋外運動を減らすこと、201〜300なら避けることが勧められています。子ども・高齢者・妊婦、慢性的な心肺疾患がある人には、さらに慎重な目安が示されています。

24時間PSI 健康な人 子ども・高齢者・妊婦 慢性的な心肺疾患がある人
100以下 通常の活動 通常の活動 通常の活動
101〜200 長時間または激しい屋外運動を減らす できるだけ控える 避ける
201〜300 長時間または激しい屋外運動を避ける 屋外活動をできるだけ減らす 屋外活動を避ける
301以上 屋外活動をできるだけ減らす 屋外活動を避ける 屋外活動を避ける

※シンガポール保健省の健康指針を記事用に要約
出典:シンガポール保健省

同じPSIでも、短時間の移動なのか、長時間の運動なのかで体への負担は変わります。数字はあくまで目安であり、自分の体調と合わせて判断することが重要です。

健康な人でも注意が必要?特に影響を受けやすい人は?

森林火災の煙は、目や喉の刺激、咳、頭痛、息苦しさ、ぜんそく発作などを引き起こすことがあります。

特に注意が必要なのは、子ども、高齢者、妊婦、慢性的な心肺疾患がある人です。こうした人たちは、同じ大気汚染レベルでも影響を受けやすく、症状が悪化する可能性があります。

健康な人でも、濃い煙の中で長時間運動すれば、吸い込む汚染物質の量は増えます。違和感があるときは数値だけで判断せず、無理に活動を続けないことが大切です。

旅行中の外出・観光・マスクはどう判断する?

旅行者が知っておきたいのは、翌日の予定を考えるときは24時間PSI予測を、今から外出するかどうかを判断するときは1時間PM2.5を見る、という使い分けです。

1時間PM2.5 区分 屋外活動の目安
0〜55µg/m³ Normal 通常の活動
56〜150µg/m³ Elevated 激しい屋外運動を減らす
151〜250µg/m³ High 激しい屋外運動を避ける
251µg/m³以上 Very High 屋外活動をできるだけ減らす

ヘイズが強い日は、長時間の屋外観光を短めに切り上げたり、博物館やショッピングモールなど屋内中心の予定に変えたりするのが現実的です。

保健省は、健康な人が短時間屋外へ出る場合、通常はN95マスクを必要としないと説明しています。一方、1時間PM2.5が非常に高いときにやむを得ず外出する場合は、顔に適切に密着したN95マスクなどが微粒子への曝露を減らす手段になりえます。

※保健省のN95マスクに関する説明を記事用に要約
出典:シンガポール保健省

シンガポール政府の公式大気情報は「Haze Information Portal」で確認できます。

Haze Information Portal

地域別の24時間PSIや1時間PM2.5が確認できるため、旅行前だけでなく現地滞在中にもチェックしておくと安心です。

ヘイズはいつまで続く?日本にも無関係ではない大気汚染問題

ここまで見てきたように、2026年10月のヘイズはシンガポールの健康や生活に大きな影響を与えています。

では、この状況はいつまで続くのでしょうか。また、遠い東南アジアの問題として、日本の私たちには本当に無関係なのでしょうか。

最後に、終息の見通し、日本とのつながり、そして長期的な解決策の方向性を確認します。

天候や風向きによって状況は変わる

10月18日午後6時の24時間PSIは109〜192まで下がりましたが、NEAは翌19日の予測も101〜190とし、引き続き健康に悪いレベルが続く見通しを示しました。

風向きが変われば煙の流入が弱まることもありますし、降雨によって一時的に空気が改善することもあります。ただし、火災が続いている限り、状況が再び悪化する可能性もあります。

つまり、ヘイズは「この日で完全に終わり」と断言しにくく、火災と気象条件の変化に応じて良くなったり悪くなったりしながら、徐々に収束していくタイプの問題だと考えたほうがよさそうです。

パーム油などを通じて日本の生活ともつながっている

ヘイズの背景にある土地利用の問題は、日本とも無関係ではありません。その接点の一つがパーム油です。

パーム油は、日本でも菓子、パン、マーガリン、石けん、洗剤、化粧品など、さまざまな製品に使われています。インドネシアやマレーシアのアブラヤシ農園の拡大が、熱帯林や泥炭地の問題と関係してきたことは広く知られています。

もちろん、パーム油そのものが一律に悪いわけではありません。問題なのは、森林や泥炭地を損なうような土地開発や、火の不適切な利用、持続可能でない管理のあり方です。

日本で暮らす私たちも、サプライチェーンの一部としてこの問題とつながっています。だからこそ、持続可能な調達や認証制度に関心を持つ意味があります。

ヘイズ問題が問いかける国境を越えた環境対策

長期的な対策として注目されているのが、泥炭地を再び湿った状態へ戻す「泥炭地修復」です。排水路をせき止め、地下水位を回復させることで、泥炭が燃えにくい環境を取り戻そうとする取り組みです。

2021年の研究では、約249万ヘクタールの泥炭地修復が2015年の大規模火災前に完了していたと仮定すると、焼失面積は約6%、PM2.5排出量は約24%、二酸化炭素排出量は約18%減らせた可能性があると推計されました。

評価項目 研究による推計結果
焼失面積 約6%減少
PM2.5排出量 約24%減少
二酸化炭素排出量 約18%減少
早期死亡への影響 約1万2,000人の早期死亡を回避できた可能性

※2015年の火災を対象にしたモデル分析であり、2026年の火災に対する実測値ではありません。

※Nature Communications掲載研究を記事用に要約
出典:Nature Communications

もちろん、泥炭地修復には時間も費用もかかりますし、地域住民の暮らしや農園経営とも調整が必要です。それでも、火災が起きてから消すだけでなく、そもそも燃えにくい土地管理へ変えていくことが重要だと分かります。

シンガポールのヘイズは、街が清潔かどうかだけでは説明できない問題です。国境の向こうの土地利用、気象条件、企業責任、国際協力、そして私たちの消費行動までつながっている。そう考えると、この問題は決して遠い国の一時的なニュースではありません。

目の前の煙を消すことと、煙が発生しにくい環境をつくること。その両方に取り組めるかどうかが、これからのヘイズ対策の鍵になります。

参考資料・出典

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