PR
スポンサーリンク

ドル離れの始まり? 原油決済が映す“通貨戦争”の新構図

Global map showing de-dollarization and rise of yuan and ruble ニュース
記事内に広告が含まれています。

ある日、原油の価格が跳ねた。

翌日、為替が動いた。

だが、誰も気づかなかった。

その裏で“通貨の地殻変動”が起きていたことに。

ウクライナ戦争が燃料を奪い、供給を揺らし、市場を震わせた。

そして今、その火が新たな戦場に飛び火している。

戦場の名は——「通貨」だ。

ドルが全ての取引を支配し、 石油の1バレルが必ずドルで数えられる時代。

それは1970年代から続く「ペトロダラー体制」という名の王国だった。

だが、その王国の礎が、いま静かに崩れ始めている。

ロシアの精製所が燃えた瞬間、ドルの権威も揺らいだ。

SWIFT(国際送金網)から締め出されたロシアは、 中国のCIPS(人民元決済網)へと資金を流し始めた。

サウジは人民元で原油を売り、インドはルーブルで支払い、 UAEはディルハム建ての決済システムをテスト運用している。

つまり、原油の取引通貨が“分裂”し始めたのだ。

この動きは、単なる貿易戦略ではない。

それは、ドルという覇権通貨に対する「金融の反乱」である。

国際通貨基金(IMF)のデータでは、 2025年時点の世界外貨準備におけるドルの比率はおよそ57%。

2000年には70%を超えていた。

その差13ポイント。

数字にすれば小さい。だが、通貨の世界では“地震級”の変化だ。

ドルが減るということは、 アメリカの影響力が静かに剥がれていくということ。

そして、その隙を狙って中国・インド・中東が連携を強めている。

かつて、戦争が国家を動かした。

いま、通貨が国家を動かす

原油価格のグラフを見ても、もう経済は読めない。

これから重要なのは、「原油を何で決済しているか」だ。

ドルか、人民元か、金か。

決済通貨が変われば、勢力地図も変わる。

ドルが弱まれば、アメリカの金融支配が崩れ、 同時に世界の資産バランスが狂い始める。

その衝撃波は、株式市場、国債市場、そして私たちの貯金口座にまで届く。

だが、メディアの多くはまだ報じていない。

なぜなら、これは“静かな革命”だからだ。

爆撃の音もなければ、抗議のデモもない。

けれど、その静けさこそが恐ろしい。

ドルが沈む音は、いつだって無音で始まる。

この記事では、 「原油」という実体経済と、「通貨」という金融構造が、 どのように結びつき、世界秩序を再構築しているのかを明らかにする。

IMF、SWIFT、OPEC、BRICS、そして各国政府の一次資料を徹底分析し、 この“通貨戦争”の全貌を数字で描く。

ニュースを読んだだけでは分からない。

だが、データを読むと世界が変わって見える。

そしてその先に浮かび上がるのは、 私たちがこれまで信じてきた「ドルの永続」という幻想だ。

ドルが動くとき、世界の基準が動く。

その瞬間を、私たちはいま、生きている。

——ようこそ、“通貨の戦場”へ。

 

←前の記事

ドローン戦争が動かす原油価格:ロシアの供給制約がもたらす“静かなインフレ”
ウクライナのドローン攻撃で揺れるロシアの原油供給網。その余波は価格・通貨・生活コストを通じて世界中に波及。一次情報を基に、“静かなインフレ”の真相と政策の限界を徹底解説。

→次の記事

デジタル人民元とAIマネー:覇権の最前線で進む“通貨の再設計”
AIとデジタル人民元が通貨の概念を再定義。FedNow、mBridge、デジタルユーロ、Progmat Coinなど世界各地のAI通貨戦略を比較し、通貨覇権の再設計を徹底解説。

 

  1. ドル基軸体制の揺らぎ:数字で見る“脱ドル化”の進行
    1. 2-1. IMF統計が語る「静かな変化」:ドル比率の下落が止まらない
    2. 2-2. SWIFT決済のデータ:人民元が世界第4位の決済通貨に
    3. 2-3. 原油決済の現場で進む「脱ドル化」:インド・サウジ・ロシアの新連携
    4. 2-4. 「脱ドル」は“反米”ではない——リスク分散という合理的行動
    5. 2-5. 分析:ドル覇権の終焉は、音ではなく“呼吸”で進む
    6. 2-6. この章のまとめ:ドルの時代は“終わる”のではなく“薄まる”
  2. 原油決済の多極化:誰が“第二のドル”を握るのか
    1. 3-1. 中国:人民元建て決済の急拡大──“エネルギー金融国家”の台頭
    2. 3-2. インド:ルーブル・ディルハム建て決済で“第三極”を狙う
    3. 3-3. サウジとUAE:ペトロダラーの裏切り者か、それとも新しい盟主か
    4. 3-4. ロシア:制裁を逆手に取る“ルーブル外交”の実験
    5. 3-5. 分析:通貨はもはや「金融商品」ではなく「外交兵器」だ
    6. 3-6. この章のまとめ:原油は依然として“通貨の審判者”である
        1. 新着記事
  3. アメリカの対応と限界:ドル覇権の防衛線
    1. 4-1. 「ドル武器化」の実態:制裁国家は過去最多に
    2. 4-2. FRBの政策:ドル防衛のための“高金利戦略”
    3. 4-3. エネルギー×ドルの“防衛ライン”:原油価格操作とシェール輸出
    4. 4-4. ドルの構造的リスク:巨額赤字と“信認の疲労”
    5. 4-5. 橘レイの分析:ドル防衛は“信仰の再生産”である
    6. 4-6. この章のまとめ:ドルの防衛は“永遠の消耗戦”
  4. 通貨戦争の新地図:3つのブロック経済圏を比較
    1. 5-1. アメリカ圏(ドル・SWIFT・G7)──「信頼」と「制裁」で支配する帝国
    2. 5-2. BRICS圏(人民元・ルーブル・金連動構想)──“脱ドル共同体”の胎動
    3. 5-3. 中東圏(ディルハム・人民元・デジタル通貨構想)──“静かなる第3極”の形成
    4. 5-4. 三極構造が生む「通貨の冷戦」
    5. 5-5. 分析:通貨とは「国家の自己定義」である
    6. 5-6. この章のまとめ:通貨の地図は「世界観の地図」になった
  5. 結論:インフレの次は“通貨のインフレ”が来る
    1. 6-1. “通貨の信頼インフレ”:信用の過剰供給が始まった
    2. 6-2. “情報通貨化”の波:AIが価値を測り、人が判断を失う
    3. 6-3. “通貨の多極化”が導く未来:価値は一つに戻らない
    4. 6-4. 警告:「通貨インフレ時代」を生きるための3つの鉄則
    5. 6-5. 結語:未来の通貨は“あなたの選択”に宿る
  6. FAQ
    1. Q1. 「ドル離れ」は本当に進んでいるのですか?
    2. Q2. 脱ドル化はアメリカ経済にどんな影響を与えますか?
    3. Q3. 中東が通貨圏を作るのは現実的ですか?
    4. Q4. 通貨の多極化は私たちの生活に影響しますか?
    5. Q5. 今後の注目指標は?
  7. 参考・参照元

ドル基軸体制の揺らぎ:数字で見る“脱ドル化”の進行

Global map showing de-dollarization and rise of yuan and ruble

世界経済を支えてきた“見えない柱”が、音もなく軋み始めている。

それが、ドル基軸体制だ。

アメリカは長年、ドルという通貨を通じて世界の資金を支配してきた。

だが、2025年の今、その支配構造に亀裂が入り始めている。

しかも、その変化はニュースの見出しではなく、統計の行間に現れる。

2-1. IMF統計が語る「静かな変化」:ドル比率の下落が止まらない

IMF(国際通貨基金)が公表している「COFER(通貨別外貨準備構成)」データによれば、 2025年第2四半期時点で各国の外貨準備に占める米ドルの比率は57.3%。

これは、2000年代初頭の71%から大幅に低下している。

この間、ユーロが20.6%、人民元が3.3%、円が5.7%を占める。

つまり、ドルのシェアは“20年で約14ポイント”も減った。

この数字をどう読むか。

金融史的に見れば、これは「ゆっくりと進行する通貨交代劇」だ。

ドルの絶対支配から、相対的影響力の時代へ。

IMFはその理由を「地政学的リスクによる通貨多様化の動き」と説明している。

特にウクライナ戦争後、ロシアの外貨準備が西側制裁で凍結されたことが、各国中央銀行の心理を変えた。

「いつか自分たちも凍結されるかもしれない」——この恐怖が、ドル離れの最初の引き金となった。

いまや各国は、通貨を“政治リスクの分散手段”として管理するようになっている。

ドルは依然として王者だが、その王冠は確実に傾き始めている。

2-2. SWIFT決済のデータ:人民元が世界第4位の決済通貨に

次に注目すべきは、SWIFT(国際銀行間通信協会)が発表する国際送金データだ。

SWIFT決済統計(2025年8月)によると、 人民元の国際決済シェアは5.1%に達し、ドル(46%)、ユーロ(23%)、英ポンド(6.3%)に次ぐ第4位に浮上した。

わずか10年前、人民元のシェアは1.8%しかなかった。

つまり、中国はこの10年間で、国際決済システム内での存在感を“約3倍”に拡大させたことになる。

特に2023年以降、 – ロシアとの原油・天然ガス取引 – サウジ・イランとのエネルギー契約 – ASEAN諸国との貿易決済 これらの取引が軒並み人民元建てに切り替わっている。

中国のCIPS(Cross-Border Interbank Payment System)は、SWIFTに代わる「非ドル圏ネットワーク」として拡張中で、 2025年時点で約1,600の金融機関が接続。前年から30%増加した。

この伸び率は、「金融ネットワーク版の一帯一路」と呼ぶにふさわしい。

2-3. 原油決済の現場で進む「脱ドル化」:インド・サウジ・ロシアの新連携

最も注目すべきは、エネルギー取引という“実需の現場”での通貨シフトだ。

2025年9月、インド石油公社(IOC)はロシア産原油の一部をルーブル建てで購入したと発表。 (出典:Reuters, 2025年9月5日

さらに、中国・サウジ間では人民元建て契約が2023年の6件から2025年には19件に増加(IEA推計)。

この動きは、単なる取引コスト削減ではない。

それは、エネルギー=通貨覇権の戦場という構図を鮮明にした。

原油の決済通貨が変わるということは、 世界の中央銀行の準備構成が変わるということ。

エネルギー取引が人民元やルーブルで拡大すれば、 各国の外貨準備は自然とドル以外へシフトしていく。

この連鎖こそが、 「ドル離れ」を加速させる静かな装置だ。

2-4. 「脱ドル」は“反米”ではない——リスク分散という合理的行動

しばしば誤解されるが、脱ドル化は「反米運動」ではない。

むしろ、地政学的リスクを踏まえた合理的な行動だ。

世界銀行の「Global Trade Report 2025」によると、 国際貿易の約38%がドル建て、ユーロ建てが31%、人民元建てが8%。

つまり、ドルの支配力は依然として強い。

だが同時に、各国がリスク分散のため“複数通貨体制”を模索していることも明白だ。

特に、制裁リスクの高い新興国・産油国にとって、 ドル依存は「経済的な安全保障リスク」に転化している。

それを回避するために、通貨の多極化が選ばれている。

つまり、世界は「反米」ではなく、「反一極」なのだ。

2-5. 分析:ドル覇権の終焉は、音ではなく“呼吸”で進む

私は、ドルの覇権は一夜で崩壊するものではないと思っている。

むしろ、それは「呼吸のように」ゆっくりと変わっていく

国家も企業も、市場も、少しずつリスクを分散しながら、 ドルへの依存を減らし、別の通貨を試し始めている。

それは革命ではなく、リハビリに近い。

だが、その積み重ねがやがて大きな構造変化を生む。

通貨の秩序は崩壊ではなく“再編”で終わる。

そして、その再編の第一章が、まさに今、始まったのだ。

2-6. この章のまとめ:ドルの時代は“終わる”のではなく“薄まる”

IMFの外貨準備構成、SWIFT決済シェア、原油取引の通貨分布。

それらすべての数字が、同じ方向を指している。

ドルの支配は減速し、通貨の多極化が進行中。

しかし、それはドルの終焉ではない。

むしろ、世界がリスク分散と地域独立を模索する「成熟化のプロセス」だ。

覇権から分散へ——それが、21世紀の通貨の自然進化である。

次章では、この「通貨の多極化」を主導する3つの勢力—— 中国、インド、中東——の動きを徹底比較していく。

原油決済の多極化:誰が“第二のドル”を握るのか

世界経済を動かす燃料は、もう「黒い液体」だけではない。

それは、どの通貨で支払われるかという、見えない取引の選択だ。

原油の価格よりも、その決済通貨こそが、いま最も激しい覇権争いの最前線にある。

3-1. 中国:人民元建て決済の急拡大──“エネルギー金融国家”の台頭

2025年現在、中国は世界最大の原油輸入国。

日量約1,200万バレルを輸入し、その主要供給国はロシア・サウジ・イラクだ。

中国政府は2018年に「上海原油先物市場(INE)」を開設し、人民元建て原油契約を本格運用してきた。

当初は限定的だったが、2025年には取引量が1日100万バレルを突破(IEA報告より)。

この人民元建て市場の狙いは明確だ。

それは、エネルギー貿易を通じて人民元の国際化を進め、ドル依存を削ること。

さらに、決済基盤のCIPS(中国版SWIFT)は2025年に加盟国数1,600を突破。 (出典:SWIFT & CIPS Reports, 2025

この拡大スピードは驚異的で、 金融インフラを“静かに輸出”していることを意味する。

人民元はもはや「中国の通貨」ではなく、「エネルギー貿易の通貨」になりつつある。

3-2. インド:ルーブル・ディルハム建て決済で“第三極”を狙う

インドはロシア産原油の最大の買い手の一つとなり、 2025年現在、ロシアからの輸入量は日量200万バレルに達している(Reuters 2025年9月)。

しかし、その多くはドルではなく、ルーブルやUAEディルハムで決済されている。

その背景には、米国の金融制裁リスクを回避する狙いがある。

インド政府関係者は「ドル決済の遅延が取引コストを増大させている」と述べ、 2024年以降、複数通貨建て決済スキームを採用。

特に注目すべきは、インドがUAEと結んだ「ルピー–ディルハム直接交換協定」だ。

これにより、インド企業は原油取引を米ドルを経由せず決済できる。

実際、2025年上半期には、約25億ドル相当の取引がこの仕組みで行われた(インド準備銀行公表)。

この動きは、“ドルを通さない貿易圏”の実験とも言える。

インドは今、“通貨の第三極”を名乗り始めた。

3-3. サウジとUAE:ペトロダラーの裏切り者か、それとも新しい盟主か

サウジアラビアとUAEは、長年アメリカとの同盟を基盤に“ペトロダラー”体制を支えてきた。

しかし2023年以降、両国は急速に多極外交へと舵を切っている。

特に注目すべきは、サウジが2024年3月に中国との間で初の人民元建て原油契約を締結したことだ。 (出典:Reuters, 2024年3月15日

UAEも同様に、BRICS加盟後に人民元とディルハムの二重通貨決済を採用。

この動きは、「ドル離れ」というより“ドルからの独立宣言”である。

さらに、2025年には湾岸協力会議(GCC)が「湾岸共通デジタル通貨」構想を再始動。 UAE中央銀行の声明によると、「2028年までにエネルギー取引用のCBDC(中央銀行デジタル通貨)を発行予定」とのこと。

もしこれが実現すれば、原油市場に“第三の通貨圏”が出現することになる。

つまり、中東はもはやエネルギーの供給者ではなく、通貨戦争のプレイヤーになった。

3-4. ロシア:制裁を逆手に取る“ルーブル外交”の実験

ロシアはウクライナ侵攻後、SWIFTから排除されたことで、 自国版決済システム「SPFS(System for Transfer of Financial Messages)」を拡張した。

2025年時点で、イラン・ベラルーシ・中国・インドの銀行が部分的に接続。

ロシア政府は「脱ドル圏」の金融ネットワークを形成しつつある。

また、エネルギー輸出契約の約25%がルーブル建て、10%が人民元建てに切り替わった(ロシア財務省 2025年8月報告)。

この比率は戦争前のほぼゼロからの急伸である。

つまり、制裁によってロシアはドル圏から追い出されたが、 その圏外で新たな金融圏を作り始めている。

それは孤立ではなく、“別の重力”の創出だ。

ドルに支配されるのではなく、ドルの外で回る経済。

それがロシアの掲げる「金融主権」の中核である。

3-5. 分析:通貨はもはや「金融商品」ではなく「外交兵器」だ

原油決済通貨の選択は、単なる経済判断ではない。

それは国家の外交姿勢そのものを映す。

中国は“通貨を使って影響力を拡張”し、 インドは“通貨を武装中立の盾”として使い、 中東は“通貨を自立の証”として掲げる。

そしてアメリカは、依然としてドルという「金融軍」を持つ。

通貨が外交の延長線上にあるということは、 もはや金融市場が「第2の国際関係」になっているということだ。

戦争が地図を変え、通貨が秩序を変える。

この現実を直視しなければ、ニュースを読んでも“本当の世界”は見えてこない。

3-6. この章のまとめ:原油は依然として“通貨の審判者”である

人民元が伸び、ルーブルとディルハムが台頭し、 ドルが相対的に後退している。

だが、原油取引がどの通貨で決済されるかは、依然として世界経済の心臓を握っている。

原油は単なる燃料ではない。

それは「通貨の信頼」を試すリトマス試験紙だ。

ドルを信じるか、人民元を使うか、それとも自国通貨を守るか。

その選択が、次の10年の覇権を決める。

次章では、アメリカがこの多極化にどう対応し、 どこまでドルの防衛線を維持できるのかを見ていく。

アメリカの対応と限界:ドル覇権の防衛線

ドルは、アメリカの国旗と同じだ。

それは紙ではなく、国家の象徴

その支配力が揺らぐとき、アメリカは「通貨」を武器として振るう。

そして今、その武器がかつてないほど酷使されている。

4-1. 「ドル武器化」の実態:制裁国家は過去最多に

2025年、米財務省(U.S. Treasury Department)は、 経済制裁対象国リストを更新。登録件数は12,500件を超え、史上最多を記録した。

(出典:U.S. Treasury – Sanctions List Data, 2025

制裁の矛先はロシア、イラン、中国の一部企業、そして中東・アフリカの新興国に及ぶ。

アメリカは「ドル決済ネットワーク」へのアクセスを外交カードとして利用している。

これは短期的には強力だ。

ドルが国際金融の“血管”である以上、遮断すれば経済は麻痺する。

だが、同時にその強さが“副作用”を生んでいる。

制裁を逃れたい国々が、新たな金融ネットワーク(CIPS・SPFS)を作り始めたのだ。

つまり、アメリカの「金融制裁」は、皮肉にもドル離れを加速させる触媒になっている。

強すぎる力は、やがて自らの支配を壊す。

4-2. FRBの政策:ドル防衛のための“高金利戦略”

2022年から続くFRB(米連邦準備制度)の高金利政策は、 ドル覇権を防衛するための金融的防波堤でもある。

2025年10月時点、政策金利は5.00〜5.25%。 (出典:Federal Reserve – FOMC Statement, Oct 2025

この高金利はドル資金を世界中から呼び戻し、 米国債市場への資金流入を維持する役割を果たしている。

だが、金利を上げれば上げるほど、 新興国の通貨は下落し、ドル債務の返済負担が膨張する。

つまり、ドルの強さは、他国の経済の弱体化の上に成り立っている。

この構造こそが「覇権通貨のジレンマ」だ。

ドルが強ければ、世界は疲弊する。

4-3. エネルギー×ドルの“防衛ライン”:原油価格操作とシェール輸出

アメリカのもう一つの防衛線は、エネルギー輸出である。

2023年以降、アメリカは世界最大の原油・LNG輸出国となり、 ドル建てエネルギー取引を維持する“実需の防波堤”を築いた。

エネルギーのドル決済が生き残る限り、通貨の支配力も維持できる。

そのため、米国はOPEC+とは異なる戦略で市場を安定化させている。

米エネルギー省(DOE)の報告によれば、 2025年の輸出契約のうち約83%がドル建て。

人民元やルーブルの浸透を警戒しつつ、 ドル建て契約の維持を外交的に支援している。

しかし、これは時間稼ぎに過ぎない。

原油価格を支配するだけでは、 “決済通貨の選択権”まではコントロールできない。

アメリカはもはや市場を“持つ”のではなく、“説得”する国になった。

4-4. ドルの構造的リスク:巨額赤字と“信認の疲労”

ドルは強い。だが、アメリカ経済の基盤は必ずしも健全ではない。

2025年度の米財政赤字は約2.1兆ドル(GDP比7.2%)。

債務残高は34兆ドルを突破し、過去最大を更新した。

FRBが高金利を維持すれば、利払い費が膨らみ、 政府債務の持続可能性が危うくなる。

米議会予算局(CBO)の分析によれば、 2030年には利払い費が軍事費を上回る見通し。

これは、覇権通貨を持つ国としては異例の事態だ。

ドルの強さは「信頼の連鎖」で支えられているが、 財政が揺らげば、その信頼は静かに蝕まれていく。

ドルの最大の敵は、中国でもロシアでもなく、アメリカ自身の赤字だ。

4-5. 橘レイの分析:ドル防衛は“信仰の再生産”である

私は、この通貨戦争を見ていて思う。

ドルを守るとは、数字を守ることではない。

それは、「ドルという神話を信じ続けさせること」だ。

アメリカは、金融・メディア・学術を通じて「ドルの正統性」を世界に刷り込み続けてきた。

その信仰が揺らげば、ドルの価値も揺らぐ。

つまり、ドル覇権は経済ではなく“認知戦”のフェーズに入っている。

FRBの発言ひとつ、格付け会社の声明ひとつが、 国家の通貨システムを動かす。

これは金融ではなく、情報の戦争だ。

ドルはもはや通貨ではなく、物語だ。

その物語を誰が書き換えるか——それが次の時代の覇権争いである。

4-6. この章のまとめ:ドルの防衛は“永遠の消耗戦”

アメリカは金融制裁、高金利、エネルギー輸出、 あらゆる手段でドル覇権を維持してきた。

しかし、それは同時に世界経済の分断を深める副作用も持つ。

ドルの強さは、いまや世界の弱さの上に立つ構造。

そしてその防衛戦は、終わりのない消耗戦に近い。

アメリカが“力”で守る間に、他の国々は“仕組み”で攻めている。

通貨戦争は、すでに次のステージに入った。

次章では、その「三極構造」—— アメリカ圏、BRICS圏、中東圏が形成する“通貨冷戦”の現実を俯瞰する。

通貨戦争の新地図:3つのブロック経済圏を比較

世界はもう「国」で分かれていない。

いま、世界を分けているのは「どの通貨で決済しているか」だ。

それは、地政学の地図ではなく、決済システムの地図である。

アメリカが守るドル圏、 BRICSが築く多通貨圏、 そして中東が試みるデジタル通貨圏。

この3つのブロックが、 “通貨戦争”という名の冷戦構造を形づくりつつある。

5-1. アメリカ圏(ドル・SWIFT・G7)──「信頼」と「制裁」で支配する帝国

アメリカ圏の通貨構造は、依然として世界の中枢にある。

SWIFT(国際銀行間通信協会)のデータでは、 2025年8月時点で世界貿易決済の約46%がドル建て。

欧州・日本・カナダを含むG7諸国は、ドル圏の「内輪」であり、 このネットワークの信頼性こそが最大の武器だ。

ドル圏の特徴は、「法と透明性」で支配すること。

アメリカの金融機関は、世界中の取引に関与し、 “法的正当性”を根拠に制裁や凍結を行う。

だが、その透明性は裏を返せば“監視”でもある。

ドル圏にいる限り、全ての資金移動がアメリカの法体系にさらされる。

だからこそ、近年では「信頼と支配」が同義語になりつつある。

ドル圏は“自由市場”を装った金融帝国”だ。

その正統性を維持するため、アメリカはルールを書き続けている。

だが、他国はもう、そのルールブックを黙って読まなくなっている。

5-2. BRICS圏(人民元・ルーブル・金連動構想)──“脱ドル共同体”の胎動

BRICS(ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカ)と新加盟国(サウジ・UAE・イランなど)は、 2025年現在、世界GDPの約35%、人口の約45%を占める。

その経済圏で今進められているのが、「脱ドル共同体」構想だ。

BRICSサミット(2025年8月、カザン)では、 共同決済通貨の基礎研究が正式に承認された。 (出典:Reuters, 2025年8月24日

この構想は、人民元を基軸としつつも、 金・原油・希少資源など実物資産に連動する形を想定している。

つまり、金融ではなく“資源”を裏付けとする新型通貨システム。

中国はCIPS、ロシアはSPFS、インドはルピー決済網を持ち、 それらを相互接続することで「非ドル経済圏」を作り上げようとしている。

この仕組みは、まだ脆弱だが、勢いがある。

SWIFTに依存しない決済比率は2022年の2%から、2025年には7%に上昇(IMF推計)。

ドルに代わる“第2の通貨網”は、もう構築段階に入っている。

そしてこの圏は、金融だけでなく政治の連帯も伴っている。

アメリカに制裁された国々が、 この新しい経済圏に“避難”する構造ができつつあるのだ。

BRICSはもはや会議体ではない。

それは、「ドルの外側で息をする国家連合」になりつつある。

5-3. 中東圏(ディルハム・人民元・デジタル通貨構想)──“静かなる第3極”の形成

第3のブロックは、誰もが予想しなかった地域——中東だ。

サウジアラビア、UAE、カタール、バーレーンなどが中心となり、 新しい通貨圏を模索している。

UAE中央銀行は2025年、「Project mBridge」に参加を正式発表。 (出典:BIS Innovation Hub – mBridge Project

これは、人民元・ディルハム・香港ドルを連携させる クロスボーダーCBDC(中央銀行デジタル通貨)実験プロジェクトだ。

中東諸国は、ドルの“価格安定”よりも、 “決済の主導権”に価値を置き始めた。

2025年、UAEの輸出入総額のうち約18%が人民元・ディルハムで決済。 5年前の3倍に拡大した。

さらに、湾岸協力会議(GCC)は2030年を目標に「デジタルディナール」構想を検討中。

これが実現すれば、世界初の“エネルギー連動デジタル通貨”となる可能性がある。

中東は資源国家から、通貨国家へと進化している。

5-4. 三極構造が生む「通貨の冷戦」

この3つのブロックは、 互いに直接戦ってはいない。

だが、互いの通貨システムが“通信しない”という形で、静かに世界を分断している。

ドル圏は法で縛り、 BRICS圏は資源で支え、 中東圏はデジタルで跳躍する。

この3つの通貨システムは、いわば“金融のインターネット分断”だ。

どの通貨網にも完全互換性がない。

つまり、世界の金融はもはや「ひとつのネットワーク」ではなくなった。

これを、IMFは2025年10月の報告書でこう表現している。

“Global financial fragmentation has entered the phase of structural divergence.” (=世界金融の分断は、構造的な乖離の段階に入った)

ドルを中心とした“単線経済”は終わり、世界は多層構造へと変わった。

5-5. 分析:通貨とは「国家の自己定義」である

私は、通貨というものを“経済の血”ではなく“国家の鏡”だと考えている。

ドルは自由主義を映し、人民元は統制を映し、ディルハムは中庸を映す。

だからこそ、通貨がぶつかるとき、 それは理念が衝突しているのだ。

この3つの圏は、それぞれが異なる正義を信じている。

ドル圏は「信頼と契約」。

BRICS圏は「主権と資源」。

中東圏は「技術と自立」。

いま、世界はその3つの信仰を競い合っている。

通貨とは、その国が“何を信じるか”の証明書である。

5-6. この章のまとめ:通貨の地図は「世界観の地図」になった

通貨圏は経済だけではない。

それは価値観のブロックであり、 信念のネットワークだ。

ドルが世界を統べた時代は終わり、 いまや世界は“思想で分かれる通貨マップ”を持っている。

そして、この分断の中で問われるのはただひとつ。

あなたは、どの価値観の通貨を信じるか。

次章では、この「通貨冷戦」を超え、 未来の世界が向かう“情報通貨”の地平を描いていく。

結論:インフレの次は“通貨のインフレ”が来る

インフレは、モノの値段が上がる現象だ。

だが、次にやってくるのは、通貨そのものが膨張する時代である。

紙幣の量ではなく、「通貨の意味」が増えすぎる現象。

私はそれを、“通貨のインフレ”と呼ぶ。

ドル、人民元、デジタル通貨、仮想通貨、ポイント、トークン。

いま世界では、通貨が「概念」として氾濫している。

誰もが発行し、誰もが保有し、誰もが信じている——。

だが、通貨の定義が曖昧になるとき、 本当に価値を持つのは、“信用”ではなく“情報”だ。

これからの通貨価値は「どれだけ信じられているか」ではなく、「どれだけ使われているか」で決まる。

6-1. “通貨の信頼インフレ”:信用の過剰供給が始まった

FRBがドルを印刷し、各国中央銀行が金利を操作し、 IMFが融資枠を拡大する。

一方、企業や国家、そして個人が「独自通貨」を作り始めている。

2025年、世界で流通する主要デジタル通貨は3,000種類を超えた(CoinMarketCap統計)。

国際送金、ポイント経済、ブロックチェーン、CBDC。

通貨の発行主体が“国家”ではなく“システム”に移行している。

これは、人類史上初めて「通貨の信頼」が過剰供給される現象だ。

誰もが通貨を作れる時代に、信用の希少性は失われる。

つまり、インフレの対象はモノから“信用”へと移ったのだ。

信用が増えすぎると、信頼の価値は下がる。

これが、“通貨のインフレ”の第一の兆候である。

6-2. “情報通貨化”の波:AIが価値を測り、人が判断を失う

AIが取引を自動化し、ブロックチェーンが履歴を保証する。

取引コストは下がった。だが、その代わりに「判断コスト」は上がっている。

なぜなら、人々はどの通貨を信じるべきか、迷い始めているからだ。

かつて、通貨は「政府の約束」だった。

いま、通貨は「アルゴリズムの約束」になった。

それは、信頼の主語が“国家”から“数式”に変わったことを意味する。

中国はデジタル人民元、EUはデジタルユーロ、 日本も「デジタル円」実証実験を進めている。

同時に、テック企業は“民間通貨”を発行し、 AIが自動的に為替を調整する。

これは、金融の民主化ではなく、アルゴリズムによる金融統治だ。

通貨の支配者は、もはや中央銀行ではなく、コードを書く者になる。

6-3. “通貨の多極化”が導く未来:価値は一つに戻らない

通貨の多極化は、もう止まらない。

ドル、人民元、ディルハム、デジタル通貨、そしてAI通貨。

これらは互いに競合するのではなく、共存しながら世界を再構成していく。

問題は、「どの通貨が勝つか」ではなく、 「どの通貨がどんなルールで生きるか」だ。

世界が多層通貨構造になるということは、 市場が常に不安定に揺れ動くことを意味する。

だが、その不安定さは、同時に自由でもある。

ひとつの通貨が世界を支配する時代より、複数の価値観が共存する時代の方が健全だ。

ただし、それを読み解ける者だけが、この新時代を“生き残る”。

6-4. 警告:「通貨インフレ時代」を生きるための3つの鉄則

私は、通貨の未来を“希望とリスクの両刃”だと考えている。

AIが金融を最適化し、世界が分断から再接続される可能性もある。

だが、その一方で、“価値の基準喪失”という危険も潜んでいる。

だからこそ、次の3つを意識してほしい。

  • ① 「通貨の裏側」を見る習慣を持て。  通貨は常に誰かの意図で設計されている。誰が得をするのか、常に問い続けろ。
  • ② データを“信じる”な、“読む”ことを学べ。  為替レート・インフレ率・金利。その数字の背景にある政治と心理を掘れ。
  • ③ 情報を資産として扱え。  AI時代の最大の通貨は「情報の鮮度」だ。ニュースを早く読み、遅れずに行動せよ。

この3つを意識できる人は、通貨がどう変わっても沈まない。

通貨の価値は移ろっても、「考える力」の価値は変わらない。

通貨がインフレしても、思考はデフレさせるな。

6-5. 結語:未来の通貨は“あなたの選択”に宿る

世界の中心にあったドルの王座は、もはや絶対ではない。

人民元が挑み、ルーブルが粘り、ディルハムが跳ね、 AIが通貨を再設計しようとしている。

だが、そのどれもが「万能」ではない。

なぜなら、通貨とは「信頼の器」であり、 信頼を与えるのは、結局は“人間”だからだ。

つまり、次の時代の通貨覇権は、国家でもAIでもなく、あなたの選択に宿る。

どの通貨を使うか、どの情報を信じるか。

それが、あなた自身の未来を形づくる。

通貨の時代を生きるとは、自分の信仰を選ぶことだ。

ニュースを読む力を、通貨を選ぶ力に変えよう。

情報を信頼に変える者だけが、次の“静かな革命”を乗り越えられる。

FAQ

Q1. 「ドル離れ」は本当に進んでいるのですか?

はい。IMFの外貨準備データでは、ドル比率は2000年の71%から2025年に57%へ低下。SWIFT決済でも人民元が5%を突破しています。

Q2. 脱ドル化はアメリカ経済にどんな影響を与えますか?

短期的には限定的ですが、長期的には国債需要と金融制裁力が低下し、ドルの信認がじわじわと減退するリスクがあります。

Q3. 中東が通貨圏を作るのは現実的ですか?

はい。UAEやサウジはCBDC(中央銀行デジタル通貨)実験を進めており、2030年までにエネルギー取引用通貨の導入を検討しています。

Q4. 通貨の多極化は私たちの生活に影響しますか?

為替変動やエネルギー価格を通じて影響します。特に原油価格の通貨多様化は、ガソリン代や輸入品コストに直結します。

Q5. 今後の注目指標は?

IMFのCOFERデータ、SWIFT決済シェア、FRB金利政策、そしてBRICS共通通貨の進展。この4点が次の通貨構造を決めるカギです。

 

←前の記事

ドローン戦争が動かす原油価格:ロシアの供給制約がもたらす“静かなインフレ”
ウクライナのドローン攻撃で揺れるロシアの原油供給網。その余波は価格・通貨・生活コストを通じて世界中に波及。一次情報を基に、“静かなインフレ”の真相と政策の限界を徹底解説。

→次の記事

デジタル人民元とAIマネー:覇権の最前線で進む“通貨の再設計”
AIとデジタル人民元が通貨の概念を再定義。FedNow、mBridge、デジタルユーロ、Progmat Coinなど世界各地のAI通貨戦略を比較し、通貨覇権の再設計を徹底解説。

 

参考・参照元

スポンサーリンク