ラニーニャ2025とは？発生確率・日本への影響・農業や食料価格のリスク

台風の進路図をにらむ気象庁の画面の前で、背筋がぞわっとする瞬間があります。

「あ、これは普通の年じゃない」──そんな直感を、気象学者たちはすでに口にし始めています。

いま、世界を覆う大気と海のリズムが、ふたたび狂い始めているのです。

ラニーニャ現象。その名を聞いただけで、農業関係者もエネルギー市場も、そして防災担当者も一斉に神経を尖らせる“気候のトリガー”。

世界気象機関（WMO）が2025年9月に発表した最新レポートは、警告のように響きました。

──「ラニーニャが再来する可能性が高まっている」。

冷たい太平洋の海面が、地球規模での気象ドミノを引き起こし始めれば、洪水、干ばつ、寒波、そして食料価格の乱高下が連鎖する。これは遠い国のニュースではなく、私たちの食卓や暮らしに直結する問題です。

私は国際報道アナリストとして何度もこの現象を追ってきましたが、正直に言います。

「ラニーニャは数字のニュースではなく、生活を揺さぶるリアルなシナリオ」です。

では、ラニーニャとは何者なのか？

今年はどんなリスクが潜んでいるのか？

そして私たちに、いまからできる準備は何か？

ここから一緒に、科学・経済・生活の3つのレイヤーで読み解いていきましょう。

ラニーニャ現象とは何か？基礎から整理
2025年9月発表：ラニーニャ再来の可能性
世界各地で予想される影響
農業・食料安全保障への波及
日本への具体的影響と備え
まとめ：不確実性の中でどう行動するか
FAQ
最新公式リンク集

ラニーニャ現象とは何か？基礎から整理

最初に土台をそろえましょう。

ここを押さえるだけでニュースの温度差が一気に読めるようになります。

ENSOの仕組み：太平洋の海水温と大気の相互作用

ラニーニャは「ENSO（エルニーニョ・南方振動）」という巨大なリズムの一部です。

赤道太平洋の海面水温と貿易風の強弱がかみ合って、世界の降水と気圧配置を揺らします。

一般にエルニーニョは東部太平洋が平年より暖かく、ラニーニャは平年より冷たくなります。

この温度差がジェット気流や対流活動を変え、遠く離れた地域にも“テレコネクション”という影響の鎖を生みます。

キー概念：海と大気の「共鳴」現象である。
観測の焦点：赤道太平洋の海面水温（例：NINO3領域）と貿易風・対流活動。
宣言の条件：所定海域で所定の閾値を一定期間満たすこと（後述の定義参照）。

ラニーニャの特徴：冷たい太平洋がもたらす気象ドミノ

ラニーニャでは東部〜中部赤道太平洋の海面水温が平年より低くなります。

強い貿易風が暖水を西側へ押しやり、西太平洋やアジアの対流活動が活発化しやすくなります。

その結果、アジア太平洋の一部で降水増、逆に南米太平洋岸などで乾燥化が起きやすくなります。

北半球冬季には寒気流入や降雪パターンの変位も起こりえます。

表1：エルニーニョとラニーニャの比較（典型像）
項目	エルニーニョ	ラニーニャ
東部赤道太平洋のSST	平年より高い	平年より低い
貿易風	弱まりやすい	強まりやすい
対流活動の中心	中部〜東部へ移動	西部（インドネシア〜西太平洋）へ偏り
典型的影響（例）	南米西岸で豪雨傾向／一部アジアで乾燥	アジア太平洋で降水増／南米西岸で乾燥

上記はあくまで「典型」であり、年や背景状態により振れ幅があります。

定義と判定：どこからが“ラニーニャ”なのか

定義は機関ごとに若干異なりますが、共通するのは「一定海域の海面水温偏差が閾値を一定期間満たす」ことです。

例えば気象庁はNINO.3の5か月移動平均偏差が−0.5℃以下の状態が6か月以上続くことなどを目安に判定します。

指標は単一ではなく、海面・大気の複数要素を総合して状態を評価します。

海：NINO領域の海面水温偏差、熱帯太平洋の海洋熱含量など。
大気：南方振動指数（SOI）、赤道域の対流活動、東風の強さ。
総合：各機関の監視・予測モデルの合意（コンセンサス）。

過去の事例：直近の“トリプルディップ”と学び

近年では2020年から2023年初めにかけて、21世紀で初の“トリプルディップ”（複数年持続）のラニーニャが発生しました。

この長期化は各地の降水・気温パターンに強い偏りをもたらし、農業や水資源に大きな影響を残しました。

多年化の可能性は常に高いわけではありませんが、長引くケースがあることは政策と備えの前提条件になります。

いま何が起きているか：2025年時点の監視状況の基礎知識

2025年9月時点で、NOAAは「La Niña Watch（ラニーニャ監視）」を掲示しつつ状況を評価しています。

WMOは2025年9月2日付の更新で、2025年9〜11月にラニーニャ水準に冷却が達する確率を約55％、10〜12月期に約60％と見積もっています。

ただし、予測は確率であり、月ごとの進行状況と季節予報の合意幅に注意が必要です。

図示のアイデア：「図1：ENSOの仕組み（海風・対流の流れ）」「図2：NINO3のSST偏差とイベント年表」「図3：テレコネクションの概念図」。

ここまでが基礎です。

この土台を踏まえて、次章では「2025年9月発表：ラニーニャ再来の可能性」を一次資料ベースで深掘りします。

2025年9月発表：ラニーニャ再来の可能性

ここからはいよいよ“最新のシグナル”を追います。

科学者たちが出した数字は、単なる統計ではなく、私たちが数か月先に直面するかもしれない現実の予告編です。

WMOの公式発表内容と予測確率

世界気象機関（WMO）は2025年9月2日に最新のENSOアップデートを発表しました。

2025年9〜11月期にラニーニャ状態に移行する確率：約55％
2025年10〜12月期にかけての確率：約60％
発生すれば2025/26年冬シーズンに影響を及ぼす可能性が高い

WMOは「ENSOの中立期からラニーニャへの移行が観測されており、農業・災害対応に影響する可能性がある」と明言しました。

NOAA・気象庁の見解比較：モデルの一致点と相違点

米国海洋大気庁（NOAA）のClimate Prediction Centerは「La Niña Watch」を継続中です。

NOAAモデル：2025年秋〜冬にかけて50〜60％の確率でラニーニャ到来を予測
日本の気象庁：2025年9月時点でENSO中立の範囲にあるが、今後の冷却傾向に注意を呼びかけ

両者の見解に大きな食い違いはなく、違いは「確率幅の提示」と「強度予測の慎重さ」にあります。

要するに「発生確率は半々以上、ただし強さはまだ不透明」というのが共通認識です。

科学的な不確実性：予報精度の限界と留意点

ENSO予測は常に「確率的」です。

スプリング・プレディクタビリティ・バリア：春〜初夏は予測精度が下がるため、秋以降の予測にずれ込みやすい。
モデル間の差異：同じデータを使っても大気循環モデルにより結果が異なる。
他の気候因子：インド洋ダイポール（IOD）や北極振動（AO）などの影響が重なると予測が複雑化。

科学者は「ラニーニャになる」と断定しているのではなく、「ラニーニャになる可能性が過半を超えた」と伝えているに過ぎません。

だからこそ、市民や企業は「確実に起こるとは限らないが、起これば大きい」というリスクマネジメントの視点で捉えるべきなのです。

図示のアイデア：「図4：WMO/NOAAのラニーニャ発生確率の推移グラフ」「図5：過去ラニーニャ発生年と世界の降水・気温異常のマップ」。

ここでの理解ポイントをまとめます。

2025年秋〜冬にかけてラニーニャ発生の可能性は50〜60％
国際機関間での見解はおおむね一致
ただし強度や継続期間の確度はまだ低い

──つまり「注意報は出たが、まだ本警報ではない」という状況です。

次章では、このシグナルが世界各地でどのような天候変化をもたらし得るのか、地域ごとに整理していきます。

世界各地で予想される影響

ラニーニャは単なる気象現象ではありません。

それは地球全体をつなぐ“ドミノ”であり、どの駒が倒れるかによって、洪水も干ばつも起き得るのです。

アジア太平洋：洪水と台風リスク

ラニーニャ期には西太平洋の対流活動が活発化し、日本や東南アジアにとっては豪雨・台風シーズンが長引く傾向があります。

日本：梅雨・秋雨前線が強化され、集中豪雨や冷夏リスク
フィリピン・インドネシア：台風・熱帯低気圧の頻発
オーストラリア：大雨と洪水の危険性が増加

2020〜2022年のラニーニャ期にもオーストラリア東部で大規模洪水が発生し、農作物被害とインフラ崩壊を招きました。

アフリカと中南米：干ばつと農業被害

一方で、ラニーニャは南米太平洋岸に乾燥化をもたらします。

ペルー・エクアドル：漁業に影響（海水温低下で一部魚種は増えるが、養殖や沿岸農業は被害）
ブラジル南部・アルゼンチン：干ばつで大豆・トウモロコシ収量減少
アフリカ東部：ケニア・エチオピアで干ばつリスク増大

FAOは過去のラニーニャ期に食料安全保障への深刻な影響が出ており、特に途上国の脆弱地域で飢餓リスクが高まると指摘しています。

北米・欧州：冬の寒波と異常降雪リスク

ラニーニャは北半球冬季の気圧配置にも影響します。

米国北部・カナダ：寒波と降雪が強まりやすい
米国南部：乾燥化で農業・水資源に打撃
欧州：直接的影響は弱いが、寒波・暴風雪のリスク増加

2021〜2022年のラニーニャ期には米国中西部で厳冬が続き、エネルギー需給に大きな混乱をもたらしました。

表2：ラニーニャ期に典型的に見られる地域別影響
地域	主なリスク	代表的影響例
アジア太平洋	豪雨・台風増加	日本の冷夏／豪州洪水
南米	干ばつ	ブラジルの大豆収量減
アフリカ東部	干ばつ・食料不足	エチオピアの飢餓リスク増
北米	寒波・乾燥	中西部の大雪／南部の水不足

──要するにラニーニャは「地域ごとに逆の顔を持つ現象」です。

洪水をもたらす地域がある一方、干ばつに苦しむ地域もある。

その不均衡が、国際貿易や食料価格を通じて私たちの生活に跳ね返ってきます。

次章では、この“食卓への波及”をさらに掘り下げ、農業・食料安全保障への影響を分析します。

農業・食料安全保障への波及

ここからは「食卓」に直結する話です。

ラニーニャは農作物の収穫量や価格に直撃します。スーパーのレタス1玉、パン1斤の値段が、太平洋の海水温に左右される──そんな現実を見ていきましょう。

穀物市場：トウモロコシ・小麦・米の価格変動

ラニーニャが起きると、南米やアフリカで干ばつが頻発し、大豆・トウモロコシ・小麦などの主要穀物が減産に追い込まれます。

アルゼンチン・ブラジル：大豆とトウモロコシの輸出減 → 世界市場価格の高騰
米国南部：乾燥化で小麦収量が減少する傾向
アジア：米の収量は地域差あり。インドシナ半島では洪水、日本では冷夏で収穫不安定

FAOによれば、ラニーニャ期は特にトウモロコシ・小麦市場に価格上昇圧力がかかりやすいとされています。食料輸入依存度が高い国々にとっては大きなリスクです。

日本の農業：冷夏リスクと収量への影響

日本にとってのラニーニャは「冷夏」や「豪雨」による農作物被害が大きなテーマです。

稲作：低温・日照不足による米の登熟不良、収量減
野菜：豪雨被害や長雨による価格高騰
果樹：台風の増加で落果や病害リスク

実際、2022年のラニーニャ期には北海道で低温・長雨が続き、米やジャガイモの収量が落ちました。

「ラニーニャ＝冷夏のサイン」と農家の方々は直感的に理解しています。

エネルギー・保険市場への副次的影響

農業だけではありません。

エネルギー市場：寒波による電力需要急増、暖房用燃料（天然ガス・灯油）の価格上昇
保険市場：洪水・台風被害の増加で保険金支払いが膨張し、保険料率上昇につながる
国際物流：港湾や輸送インフラへの被害が出れば、サプライチェーン全体が揺さぶられる

表3：ラニーニャが農業・市場に与える波及効果
分野	主な影響	具体例
穀物市場	減産・価格高騰	大豆・トウモロコシ（南米）、小麦（米国南部）
日本農業	冷夏・長雨	米の登熟不良、野菜高騰
エネルギー	需要増・価格上昇	天然ガス・灯油高騰
保険・金融	損害増大	洪水・台風保険金の増加

──つまりラニーニャは「農家の収量」だけでなく、「都市の電気代」や「世界の投資マネー」にまで波及する現象なのです。

次章では、さらに日本にフォーカスして「自治体・企業・家庭がいまからできる備え」を掘り下げます。

日本への具体的影響と備え

ラニーニャは「遠い太平洋の話」ではありません。

日本列島にとっては、冷夏・豪雨・大雪といった“生活直撃型”のリスクを伴う現象です。

ここでは、気象庁の見解を踏まえながら、自治体・企業・家庭レベルでの備えを整理します。

気象庁が警戒するパターン：豪雨・冷夏・大雪

日本の気象庁はENSO監視速報で、ラニーニャ期に注意すべき典型的パターンを指摘しています。

夏：梅雨前線・秋雨前線が活発化 → 長雨・集中豪雨のリスク増大
秋：台風の発生数・上陸リスクが高まる傾向
冬：寒気が南下しやすく、大雪・寒波の頻度増加

過去のラニーニャ年（例：2010〜2011年冬）には、北日本で記録的豪雪が発生し、交通網や物流に深刻な影響を与えました。

自治体・企業が準備すべき対策

ラニーニャは「広域的な異常気象」を意味します。自治体や企業は、災害対応と事業継続計画（BCP）の強化が不可欠です。

自治体：避難所の収容力確認、豪雨時の河川監視体制強化、除雪・融雪の準備
企業：サプライチェーンのリスク点検、在庫戦略の見直し、テレワーク環境の整備
農業法人：水田・畑の排水対策、寒冷・多雨対策資材（ハウス・シート等）の確保

家庭でできる備え：食料・水・保険・情報収集

私たち一人ひとりにも、できることはたくさんあります。

食料・水：最低3日〜1週間分の備蓄を確保
防災用品：懐中電灯、モバイルバッテリー、簡易トイレなど
保険：火災保険・地震保険に加え、水害特約の確認
情報収集：気象庁の最新情報、自治体の防災アプリの利用

表4：日本で想定されるラニーニャ影響と対策例
季節	リスク	対策例
夏	集中豪雨・冷夏	排水対策／農作物の耐雨品種導入
秋	台風増加	屋根・窓の補強、停電対策
冬	寒波・大雪	除雪体制強化、暖房燃料の備蓄